Art Reportーアート鑑賞録ー

美術館・博物館・ギャラリーでの展示鑑賞録。

「ぼくは君たちを憎まないことにした」は欠けたものを抱えながらも生きていく1番優しい仕返しの方法

「ぼくは君たちを憎まないことにした」を見ました。

nikumanai.com


※多少のネタバレを含みます。

もし私がこの主人公と同じ境遇に陥ったとしたら
大切な人の亡骸を確認したその日に
「君たちを憎まないことにした」なんて思えるだろうか。言えるだろうか。
一生かかってもこの心境にはなれないかもしれないと考えてしまいます。
 
語弊があるかもしれませんが、不慮の事態によって
妻が夫と幼い子どもを残して
他界してしまうというストーリー自体は(この逆もありますが)
正直、珍しいものではありません。
 
ただ、本作は2015年11月にパリで起きた同時多発テロ事件が発端であること、
世間がテロに対する恐怖や憎しみがほとんどだったのに対し
早々に冒頭で触れたような意思表明とも言える手紙を
テロリストに宛てたことが衝撃でした。
 
手紙の言葉そのものはきっとそのときに感じた
本心だったに違いないでしょうが
実際にはその後も迷い、戸惑い、泣き、叫び、
子どものことなんて考えられないくらいに
落胆し、憔悴し、家族との衝突も繰り返されます。
 
しかし、あの言葉があったからこそ
完全には理性を失わなかった、
世界の人々との連帯も感じられたのだと思います。
 
(その連帯の裏側で
 知り合いでもない一般人が有名人の言動に
 何にでも首を突っ込んで
 おせっかいをやくSNSを見る昨今、
 もしかして誹謗中傷もあったのではないかと
 チラリと考えてしまったのですが
 パンフレットを読む限り
 そういうことがなかったというのにホッとしました)

※引用:「ぼくは君たちを憎まないことにした」パンフレットより
本作は「もし自分がその立場になったなら」ということを
決して美談としてではなく
生活の一部として考えるきっかけとなる
またそれを狙った作品にも感じます。
 
憎しみを煽るような行為には乗らない、
自分たちが変わらぬ生活をし幸せになることが
彼らへの仕返しだというメッセージは
この世界で1番優しい仕返しの方法だと思う。