「ほかげ」を見ました。
※多少のネタバレを含みます。
戦中・戦後を背景とした作品は多くありますが
特に戦後が舞台となっている場合、
どちらかというと人物描写も含め復興に向けた
エネルギー溢れる物語になっていることが多い気がします。
しかし、本作は1番現実に近いんじゃないかと思わされます。
同じ戦後の描き方という点で少し前に見たゴジラー1.0と比較してしまうのですが
「ほかげ」のほうが現実味を感じてしまいます。
(ゴジラ自体が架空なので見る側も現実と切り離して見ているという事情はあるかもですが)
女性も子どもも、運よく戦地から帰ってきた復員兵も
本来なら生きている幸せをかみしめられるはずなのに
敗戦という結果からの混乱に
生きているからこその“地獄”を見せられる不条理。
特に前半パートでは陰影の雄弁さが際立ちます。
決して単純な黒一色の暗闇ではなく闇の中にも陰影があり
時には炎の揺れとリンクするような心情をうつしだす
映像上の演出が効いていると感じました。
ほろりときてしまったのは「女」が、いついてしまった「坊や」のために
布を紐解いてシャツを作る場面。
それまで陰鬱な情景が続いていたのに
そこだけは明るくて希望があって昂る気持ちや優しさが伝わってきて
このままささやかな幸せが訪れるのかなと漠然と感じられて。
でもそうはならなかったんですよね…。
ここに描かれている人々は当時には
決して特殊であったり珍しいケースではなく
ありふれたことだったのかもしれません。
でも、だからこそもしまたこの国が戦争に巻き込まれたら
戦争を起こしたら彼らはそのまま自分たちになる恐れもあるのです。
「戦争」が終わっても、すぐにまた以前の満ち足りた生活が
目の前に横たわるわけではないというのを実感しました。
生き延びても登場人物たちは孤独なまま。
人の名前で役名が与えられていないのは
そういう部分もあるのかなと勝手に解釈しました。
ラストはなんとなく「禁じられた遊び」のラストを思い出してしまったのですが
それが明るい未来なのか、まだまだ続く困難の始まりなのか…。
ありきたりではありますが「坊や」の強いまなざしに
逞しく明るい未来を希望せずにはいられません。